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「おはよう、ソレイユ」
まだ覚醒しきっていないソレイユの頭に、セロリの低いささやきが心地よく響いてくる。
「ん、おはよう…」
反射で返事をしたが、きちんと声として発せているかもよくわからない。
降り注ぐ朝日と、それに温められた薄い布団の感触を確かめながら、ソレイユはゆっくりとまぶたを開いていく。
開ききった先で、彼と、水玉のように透き通った瞳の彼と、目が合った。
「大丈夫?」とセロリが口を開く。
「…うん」と応えながら、ソレイユは脚をもぞりと動かす。
素足に薄い毛布が触れるこそばゆい感触が種になり、身体中の神経が帰ってくる。

爪先から身体へ登ってくる目覚めの感覚の途中で、自分のものではない熱が触れていることに気がついた。
その正体を確かめようと、辛うじて動かせる指の先で、その熱に触れた。
「_____っ」
ソレイユをじっと見つめていたセロリの瞳が、微かに細くなり、揺らいだ。

ソレイユの身体の奥底で、僅かに残っていた熱が、燻る。

少しずつ動くようになった腕を引きずり、セロリの手を捕まえる。
そして、自分の胸元へと連れていった。

細い指先の中に、どく、どく、と、血が流れている感触。そのリズムを、肌越しに、確かに受け止める。
燻った熱が、赤みを帯びる。身体の内側から、甘く腹を炙ってくる。

胸元に彼の手を捕まえながら、はあっと息を吐く。空気の抜けて縮んでいく肺に、ぴったりと手が吸い付いてくる。
そしてまた息を吸う。さっきよりもゆっくりと、湿り気を帯びた空気が、喉の奥に流れ込んでくる。

「ふあ」
不意に、セロリの指が、ソレイユの手からスルリと抜けて動き始めた。
もう一度捕まえようとするソレイユの手から逃げ回り、軽やかにソレイユの胸の上を跳ね回る。
つん、つん と、触れられた場所から、小さく刺すような刺激が走る。
「あ、あ」
まだ目覚めきっていないソレイユの頭は、そのひとつひとつに、理性を伴わない声で反応してしまう。

揺れる視界の中で、ソレイユは、悪戯っぽい笑みを浮かべたセロリの顔をじっと見ながら、「ちゃんと目が覚めたら、恥ずかしくて顔見られなくなっちゃうだろうな」と、ぼんやりと考えた。
そして、思い立ち、ソレイユはセロリの手をもう一度捉えた。
「…ねえ、」
自分ではちゃんと口を動かしているつもりだが、頭がぼおっとして、言葉にできている自信がない。
でも、それでいい。
目が覚める前に、言っておこう。
まだまどろみの中にいる今のうちに、ひとつだけわがままを言ってみよう。
あの瞳に向かってこんなお願いをするなんて、いつもじゃ絶対できないから。
「…もう1回」

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